こんにちは、早起きラガードです。
Jリーグの観客動員を増やす方法として、ビッグネームの獲得が提案されることがあります。
でも実際には、ビッグネームの獲得が100%観客増につながるわけではありません。
ビッグネームにも色々あることを目の肥えたサッカーファンは知っているからです。
今回は2017年、2018年にJリーグに移籍してきた三人のビッグネームを対象に、彼らの加入がホームの観客動員に与えた影響を見ていきます。
- ルーカス・ポドルスキ選手(2017年神戸に加入)
- アンドレス・イニエスタ選手(2018年神戸に加入)
- フェルナンド・トーレス選手(2018年鳥栖に加入)
ビッグネーム①:ルーカス・ポドルスキ選手
ポドルスキ選手のプロフィール
2017年に神戸に加入したルーカス・ポドルスキ選手は、2003年にドイツの1.FCケルンというクラブでデビューしました。
その後同じドイツのバイエルン・ミュンヘンや、イングランドのアーセナルといったビッグクラブでプレーしています。
ドイツ代表では130試合出場。49得点を挙げました。これは、どちらもドイツ代表歴代3位の記録に当たります。
2014年にドイツが24年ぶりの優勝を飾ったブラジルW杯にも、メンバーとして選ばれていました。Jリーグにはもったいないくらいの、申し分のないビッグネームです。
しかし、2017年の神戸に与えた観客動員数への影響は限定的なものでした。
ポドルスキ選手加入前後の、ホームゲームの観客数
ポドルスキ選手のJ1リーグ初出場は、2017年7月29日に行われた第19節大宮アルディージャ戦です。神戸のホームゲームでした。
直前のホームでの試合は、第18節ベカルタ仙台戦です。
第18節、第19節の観客数は、以下のようになりました。
第18節 仙台戦 | 19,207人 |
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第19節 大宮戦 | 19,415人(+208人) |
増えてはいるものの、その差はわずかに208人。
増加率にして、約1.1%でしかありません。
ポドルスキ選手の加入は、観客増のカンフル剤にはならなかったことがわかります。
年間通じての観客動員は?
では、2017年全体を通じての観客動員数には、どんな影響を与えていたのでしょうか?
ここでは、ちょっと奇妙な数字が現れてきます。
ポドルスキ選手加入前 | 19,907人 |
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ポドルスキ選手加入後 | 16,432人(‐3,475人) |
※数字はともに一試合平均
何と、ポドルスキ選手加入後に3,500人近くも減ってしまっているのです。
ポドルスキ選手加入前後の試合数に、大きな差はありません。
- ポドルスキ選手加入前 9試合
- ポドルスキ選手加入後 8試合
平日開催が多かったせいか、とも思ったのですが、2017年に平日開催となった神戸のホームゲームは1試合だけでした。
ポドルスキ選手加入後の試合ではあったのですが、お盆休み中の平日だったので、実質的には週末開催と同じです。
実際、その日の観客数は19,039人で、週末と変わりがありませんでした。
この大幅な観客減がポドルスキ選手の加入によるもの、ということはさすがにないと思いますが…… 一方で、増加につながっていないことも事実です。
ポドルスキ選手の加入が、神戸の観客動員に与えた影響は限定的なものでした。
ポドルスキ選手の加入が、神戸の観客動員数に与えた影響は限定的
ビッグネーム②:アンドレス・イニエスタ選手
イニエスタ選手のプロフィール
アンドレス・イニエスタ選手が神戸に加入したのは、2018年。
ポドルスキ選手加入の翌年です。
1984年生まれのイニエスタ選手は、FCバルセロナの下部組織出身です。2002年にトップチームにデビューしてから16年間、バルセロナひと筋でした。
同じ下部組織出身のシャビ・エルナンデス選手とともに、バルセロナの象徴的な選手で、9回のリーグタイトル獲得と、4回のUEFAチャンピオンズリーグ制覇に大きく貢献しています。
スペイン代表としても主力を担い、2008年、2012年には史上初のEURO連覇。
※EUROについてはこちら。
2010年南アフリカW杯ではオランダとの決勝でゴールを決め、スペイン初のW杯優勝の原動力にもなりました。
神戸に移籍する直前の2017-2018シーズンにもバルセロナで、リーグ戦30試合に出場。そのうち25試合で、先発しています。
2018年ロシアW杯のメンバーにも選出されて、スペイン代表が戦った全4試合に出場しました。こちらも3試合に先発しています。
神戸に移籍してきたときは34歳でしたが、まだまだ十分トップクラスの実力を維持していました。Jリーグへの移籍が、奇跡と言ってもいいくらいの選手です。
そしてやはりそれだけの世界的な有名選手であるだけに、観客動員数に与えた影響も大きなものでした。
イニエスタ選手加入前後の、ホームゲームの観客動員数
イニエスタ選手のJリーグ初出場は、2018年7月22日に行われた神戸のホームゲーム、第17節湘南ベルマーレ戦でした。
直前のホームでの試合は、5月20日の第15節北海道コンサドーレ札幌戦。
二つの試合の間に二か月の開きがあるのは、ロシアW杯の中断期間があったためです。
第15節と第17節の観客動員数は、次のようになりました。
第15節 札幌線 | 18,725人 |
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第17節 湘南戦 | 26,146人(+7,421人) |
観客数は、何と驚きの7,421人増加。増加率にすると、およそ40%にもなります。
これは十分なカンフル剤になっていますね。
イニエスタ選手のJリーグ移籍が、いかに大きな衝撃だったかが数字の上からもわかります。
年間通じての観客動員は?
2018年通じての観客動員増にも、イニエスタ選手は大きく貢献しています。
イニエスタ選手加入前 | 17,170人 |
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イニエスタ選手加入後 | 24,752人(+7,582人) |
※数字はともに一試合平均
増加率は、約44%。長期で見ても、加入直後と同等以上の増加率を保っているように見えます。
ただ、これにはちょっと裏があるため、この数字をそのままイニエスタ選手加入の影響と呼ぶことはできません。
というのも、2018年は先ほども紹介したロシアW杯の影響で平日開催の試合が多かったのです。
神戸の場合、ホームでの平日開催の試合は次の通りでした。
- イニエスタ選手加入前:2試合
- イニエスタ選手加入後:1試合
加入後にも平日開催がある、と思われるかもしれませんが、平日は平日でも、こちらは8月15日の開催。
お盆休み真最中で、実質週末開催と変わりありません。実際、観客動員数も25,000人を超えました。
一方、加入前の2試合は4月と5月で、ともに観客数が10,000人を割っています。
ただ、では平日開催の影響で大きく増加していたように見えていただけか、というとそんなこともなく、増加幅は縮小するものの、大きく増えていることに変わりはありません。
平日開催分を除いた、イニエスタ選手加入前後の観客動員は次の通り(8月15日開催は、週末扱いとして計算)。
イニエスタ選手加入前 | 20,284人 |
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イニエスタ選手加入後 | 24,752人(+4,468人) |
4,468人増加で、率にすると約22%。44%にこそ届かないものの、これでも十分すぎるほどの増加です。
イニエスタ選手の加入によって、神戸は大きく観客動員数を増やしました。
イニエスタ選手の加入は、神戸の観客動員数増加に大きく貢献。
ビッグネーム③:フェルナンド・トーレス選手
フェルナンド・トーレス選手のプロフィール
フェルナンド・トーレス選手が鳥栖に加入した時期は、神戸にイニエスタ選手が移籍した時期と重なります。
トーレス選手もまた、イニエスタ選手同様元スペイン代表。110試合に出場し、38得点を挙げています。
イニエスタ選手とともにスペインの黄金期を支えた主力の一人でもあり、2008年、2012年のEURO連覇と、2010年のW杯優勝に大きく貢献しました。
イングランドのリバプールやチェルシーでプレーし、鳥栖に移籍する直前はスペイン、アトレティコ・マドリードに在籍。
1984年生まれなので、鳥栖移籍当時は34歳でした。
スピードが特徴の選手だったので、年齢による衰えは見られましたが、それでも先に挙げた両選手に引けを取らないビッグネームです。
そしてトーレス選手の加入は、鳥栖の観客動員数に小さくない影響を与えました。
トーレス選手加入前後の、ホームゲームの観客動員数
トーレス選手のJリーグ初出場は、2018年7月22日。イニエスタ選手と、同じ日です。
第17節の鳥栖のホームゲームで、相手はベカルタ仙台でした。
直前のホームでの試合は、5月20日の第15節FC東京戦になります。こちらもやはりロシアW杯の中断期間のため、2ヶ月の開きがありました。
第15節 FC東京戦 | 12,163人 |
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第17節 ベガルタ仙台戦 | 17,537人(+5,374人) |
5,374人の観客動員数の増加。増加率は44%で、イニエスタ選手並です。
年間を通じての観客動員は?
トーレス選手加入前 | 12,452人 |
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トーレス選手加入後 | 17,265人(+4,813人) |
※数字はともに一試合平均
4,800人を超える増加、と言いたいところですが、イニエスタ選手の場合と同じく2018年は平日開催が多い年でした。
鳥栖の場合、ホームゲームのうち、第1節、第7節、第10節、第12節の4試合が平日開催でした。いずれも、トーレス選手加入前になります。
平日開催分を除くと、結果は次のようになりました。
トーレス選手加入前 | 14,252人 |
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トーレス選手加入後 | 17,265人(+3,020人) |
3,020人の増加で、率にするとおよそ21%。
当初の数字よりは大分減りましたが、それでも20%を越える増加ですから、観客増の貢献度はイニエスタ選手並です。
トーレス選手の加入は、鳥栖の観客動員に大きく貢献していたことがわかります。
トーレス選手の加入も、鳥栖の観客動員数増加に大きく貢献
ビッグネームのブランド力
ひと言で言ってしまうと、それぞれが持つブランド力ですね。
ビッグネーム、と一括りに呼んでしまっていますが、実際にはすべての選手が同じではありません。ビッグネームの中にも差があります。
特に大きいのは、全盛期の力をどれだけ残しているか、ですね。
ポドルスキとイニエスタ選手の違い
神戸に移籍する直前、ポドルスキ選手が在籍していたのは、トルコのガラタサライというクラブでした。トルコリーグで20回以上の優勝している、国内有数の強豪クラブです。
ですが、世界レベルのビッグクラブかというと、残念ながらそこまでとは言えません。トルコリーグ自体も、イングランド、スペイン、ドイツ、フランス、イタリアといった欧州のトップリーグと比較すると、力は劣ります。
一方イニエスタ選手は、神戸に移籍する直前もFCバルセロナに在籍していました。
バルセロナは、押しも押されもせぬ世界のビッグクラブで、UEFAチャンピオンズリーグでも5回優勝しています。これは、レアル・マドリード、ACミランに次ぐ歴代3位の記録です。
そのバルセロナで、イニエスタ選手は移籍直前までリーグ戦30試合に出場していました。
2018年のロシアW杯にも、スペイン代表として出場。スペインが戦った4試合すべてに、出場しています。
移籍してきたとき既に34歳になっていたので、全盛期と比較すると力が落ちているのは間違いないですが、それでもバルセロナ、スペイン代表の両方でまだまだ主力として十分活躍できる選手でした。
ポドルスキ選手もガラタサライでは主力だったのですが…… バルセロナと比べるとどうしても見劣りしてしまいます。
トーレス選手はポドルスキ選手に近い
トーレス選手のブランド力は、ポドルスキ選手に近いです。
鳥栖移籍の直前に所属していたクラブは、アトレティコ・マドリード。レアル・マドリード、バルセロナと共にスペイン三強と言われるクラブの一つです。
ビッグクラブに当たるかどうかは微妙なところですが、欧州有数の強豪クラブであることは間違いありません。2010年代に、UEFAチャンピオンズリーグで2度、決勝に進出しています。
鳥栖移籍直前のトーレス選手は、そのアトレティコ・マドリードでリーグ戦27試合に出場しました。
スペインリーグ(リーガ・エスパニョーラ)は、全38試合で戦われますから、27試合の出場は決して少なくありません。ですが、その大半が途中出場なのですね。
先発した試合は7試合しかありません。
イニエスタ選手の場合、出場した30試合のうち25試合が先発でした。
この違いは大きいです。
というのも、この先発7試合という数字は、残念ながらトーレス選手が、強豪アトレティコ・マドリードにおいて、主戦力としては考えられてはいなかったことを意味するからです。
ポドルスキ選手は、欧州の強豪とは言えないクラブで主戦力でした。一方トーレス選手は、欧州の強豪クラブで、準戦力の扱いでした。
トップクラブで主戦力として通用しなくなっている、というところが、両選手に共通しています。
ポドルスキ選手とトーレス選手の違いは?
これはもう、イニエスタ効果に尽きますね。
イニエスタ選手のJリーグへの移籍は、大きなニュースになりました。まだ十分ビッグクラブで主力を張れる選手がJリーグに移籍してくるというのですから、これは当然です。
かくいう私も、最後の最後まで信じることができませんでした。
そのイニエスタ選手のニュースに、トーレス選手もしばしば一緒に取り上げられていました。
どちらも元スペイン代表、それも共にスペイン黄金期を支えた主力選手、しかも同時期のJリーグ加入という意味で共通点が多く、合わせて語りやすかったのだと思います。
トーレス選手加入による観客増は、このときの露出の多さが大きく関係していたと思われます。
イニエスタ選手加入の、副次的な効果と呼んでもいいのかもしれません。
ですので、トーレス選手自身のブランド力によるものか、というと必ずしもそうは言いきれません。
まとめ:ビッグクラブの主力クラスなら、観客動員増に大きく貢献
ビッグネームの獲得は、確かに観客動員増につながります。
ただし、それにはブランド力のあるビッグネーム、つまりは、ビッグクラブで、主力として活躍できる能力のある(あるいは、それだけの力をまだ残している)選手が必要です。
世界的に名前を知られてさえいれば、どんな選手でもいい、というわけではありません。
ピークを過ぎた選手を連れてきても効果が薄いのは、ポドルスキ選手の例からも明らかです。
ただ、実際には「ブランド力のある選手」の獲得は、ほとんど不可能に近いと言っていい話です。
ビッグクラブで主力を張れる選手は、移籍金も年俸も桁違いに高いからです。
Jリーグのクラブの資金力では、無理があるでしょう。
ビッグネームの獲得で観客を増やそうというのは、あまり効果的な話でも、現実的な話でもなさそうです。
Jリーグに、欧州のビッグクラブ並の予算を組めるクラブが現れれば話は別ですが……
そうでない限り、観客動員の増加にはもっと地に足を付けた方法を考えるべきでしょう。
今回は、以上です。